昭和33年の市政施行以来、東京のベッドタウンとして反映してきた草加市。

しかし近年は「市内で楽しむ場所がない」「まちに愛着がない」「職場も買い物する場も遊ぶ場もすべて市外」という住民が多く、「寝に帰るだけのまち」になっていると懸念する声もあがっていました。

そこで「ほしい暮らしは自分でつくる」という理想のもと、始まったのが「そうかリノベーションまちづくり事業」。

今回はその取り組みの中心としてまちの魅力化のために頑張る2組の方を紹介。さらにはこれを推進する草加市職員の高橋さんにも話を伺いました。

まちのコンテンツを有効活用!そうかリノベーションまちづくり

「愛着の持てるまちにしたい」と、草加市は2013年にまちづくりに向けた調査を開始。その結果、大規模施設などハードを中心とした開発ではなく、もともとまちに存在するコンテンツを有効活用して「まちに暮らす人たちが豊かになる」「まちに面白い人たちが集まる」ための再生を望む声が多いことがわかりました。

そこで、空き家・空き店舗等遊休不動産、公共施設などの「空間資源」、地場産業、都市農業、音楽、宿場町などの「産業・文化・歴史資源」、子育て母、高齢者、学生、働くパパなどの「人的資源」を掛け合わせ、まちの魅力となるコンテンツを創出することで、地域経済の活性化や新しい都市型コミュニティ形成の実現を目指す「そうかリノベーションまちづくり」を2015年から本格的にスタートさせました。

まちづくりのエンジン!リノベーションスクール@そうか

「リノベーションスクール@そうか(通称:リノスク)」は、まちづくりの担い手の発掘・育成を目的として2016年から開催されているワークショップです。

市内外から集まった受講生がグループを組み、実在する遊休不動産やオープンスペースを題材に、地域経営課題を解決する事業計画を作成していきます。

ここからすでに9店が誕生し、草加の新たなまちづくりを推進するキープレイヤーとして活躍しています。

【そうかリノベーションまちづくり】PLAYER1「シェアアトリエつなぐば」小嶋直さん/松村美乃里さん

「シェアアトリエつなぐば」小嶋直さん/松村美乃里さん

「仕事」「母親」「地域」をつなぐ――。人と結びつく幸せを分かちあう場を、このまちに

「シェアアトリエつなぐば」は、第1回リノスクで誕生した「つなぐば家守舎株式会社」が運営する施設。趣あるアパートをリノベーションしたスペースにはシェアアトリエ、カフェ、託児室、美容室などがあり、子育て中の母親が活き活きと働いています。

「シェアアトリエつなぐば」内で設計事務所を営む小嶋さん。「設計士として、草加の空き家を建て替えて、住まいとして提供する事業」も今後手がけていきたいですね」。

代表取締役の小嶋さんは、もともと川口市で設計事務所を営んでいました。そこでは同年代の事業者たちがお互いの子どもの面倒を見合いながら仕事をする環境があり、仕事や子育てを通じたつながりの素晴らしさを実感していたといいます。

草加市が主催した「私たちの月3万円ビジネス」というワークショップを受講し、同年代の女性と知り合う中で「母親たちが子連れで働くことができる環境をつくりたい」と感じた松村さんは、リノスクに参加し、子連れで働けるシェアアトリエを事業として提案しました。

「単なるレンタルスペースではなく、お互いの能力やアイデアをシェアし、時間や想いを共有する場にしたい」と考えた松村さんと、リノスクに講師として参加していた小嶋さんはすぐに意気投合。「仕事につながる」「母親とつながる」「地域につながる」という3つのコンセプトを実現するための場の創出へと動き出したのです。

「小さなまちだからこそ『自分事』としてまちづくりに参加できる。この規模感も好きなところです」と草加の魅力を話す松村さん。

そして2018年、築30年のアパートをリノベーションし、「シェアアトリエつなぐば」が誕生しました。「もともと建設を予定していた物件が着工前日に火事になってしまうという、最初から大きな危機に直面してのスタートでした」と振り返る松村さん。場所探しから設計、企画など1からやり直し、予定より1年間遅れてのオープンになりましたが、その時間に出会った仲間や、紡いだ近隣とのつながりが、今の「シェアアトリエつなぐば」をつくるうえでの基盤になったと語ります。

最初は「他人事」という感覚で参加していたメンバーにも、イベントや新しい企画を一緒に運営していくなかで、次第に「ここは自分がやりたいことを表現する場所」という感覚が芽生え、単なる「個人事業主の集まり」という以上の「人と結びつくことの幸せを分かち合う場」という意識が根付いていきました。

築30年のアパートをリノベーションした「シェアアトリエつなぐば」。1階と2階をつなぐ階段は、小嶋さんがポラスの「棟下式」に参加した際にもらった廃材を活用。

「コロナの影響が強かった時期には、カフェを閉鎖しなければなりませんでした。しかしそれでも『今だからできることはないか』とみんなで考え、ウッドデッキに屋台を構え、公園に来た親子向けにお弁当やお菓子を販売したんです。結果的にそれが反響を呼び、地域の人にここがどんな場所なのかを知ってもらう機会になりました」と小嶋さん。オープンしてから4年間で、メンバーのみならず地域とのつながりも確実に強くなっています。

今年6月25日には、市民がお気に入りの本を持ち寄り、それを貸し出す「さいかちどブンコ」がオープン。「つなぐばと合わせて、この手作りの図書館を地域のリビングとして、気軽に人が集まり、つながる場所にしていきたい」と、小嶋さんと松村さんは明るい笑顔で語ってくれました。

約30cm 四方の本棚を借りることで、自分の好きな本を置くことができる「さいかちどブンコ」。
「愛読書には、その人の個性が出る。本の貸し借りで、新しい交流ができたら面白い」と、その目的を語る2人。

【そうかリノベーションまちづくり】PLAYER2「チャヴィペルト」中山拓郎さん

「食」を通じたネットワーク。草加をオーガニック野菜のまちに!

草加市で19年間、家業の都市農園を営んでいた中山さん。ここで収穫される国の有機JAS認定を受けた朝採りのオーガニック野菜は、都心の有名レストランからの買い付けがくるほどの人気商品です。

チャヴィペルト農園長の中山さんと、スタッフの山北さん。オーガニック野菜や都市農園に関して興味を持つ若い人も増えているそうです。「これも『食』を中心とした世代間のつながりですね」と話す中山さん。

しかし中山さんは自分の農業に「どこか行き詰まりを感じていた」と話します。「誰のため、何のために野菜をつくり、販売しているのか、自分自身疑問を感じていました。そこで第1回目のリノスクに参加して、同じ温度感の仲間と想いを交わしてみたいと思いました」。

そこで気がついたのは、本物のオーガニック野菜を収穫する都市農園が、このまちにあることの意義。「地元のカフェやレストランで新鮮で安心・安全な野菜を使った料理が食べられることは、このまちに暮らす人が『エコ』や『オーガニック』な生活を営むきっかけになる。またそれを外に向かって発信することで、市外から草加に訪れる動機付けにもなる。自分が運営する『都市農園』という地域資源を活用すること。それが、ここでオーガニック野菜をつくることの意義になる」という考えにいきついたそうです。

畑はJAS有機農産物認証を取得。毎年100項目以上の検査項目に基づいて生産行程の管理を行いながら、年間約70種類の野菜、果樹、ハーブを栽培しています。

中山さんはリノスクで誕生した地元のカフェやレストランとの関係を深め、都内の有名店のメニューに入ったオーガニック野菜を、草加で気軽に味わうことができる環境づくりに努めています。

畑で採れたばかりの野菜を直販するチャヴィペルトの「オーガニックファームストア」。

「ウチの直売店に『あのカフェで食べた料理に使われている野菜はどれですか?』と聞きに来るお客様、逆に『チャヴィペルトさんの野菜を使ったレシピを教えてください』とお店で聞くお客様も増えたそうです。飲食店と農園、それぞれのお客様のネットワークが生まれ、お互いのファンがまちの中で“面”で広がる感じがします。『食』によって、まちのテイストが変わり、人と人とがつながり、新しいストーリーが生まれる。そこに自分の野菜が貢献できることの喜びを感じています」と話してくれました。

チャヴィペルトの野菜を使った料理を提供する「野菜とお酒のバル スバル」(スマイリングvol21に登場)。地元のレストランとのお客様を通じた交流も生まれています。

リノベーションまちづくりで変わり始めたまちを楽しもう!

「リノスク」から誕生したお店

草加リノベーション散歩MAP。詳しいMAPはこちら

①Coworking space Torino’s
②PAKAN(パカン)
③soso park
④キッチンスタジオ アオイエ
⑤野菜とお酒のバル スバル
⑥ecoma coffee
⑦洋食屋アターブル
⑧おーぐぱん
⑨草加宿 今様本陣
⑩シェアアトリエ つなぐば

そうかリノベーションまちづくりの特徴

2015年草加市でスタート。現在春日部市、杉戸町などにも広がり中!

・民間主導の公民連携
民間主導でプロジェクトを興し、それを行政が支援

・地域の経営課題を複合的に解決
空間資源と地域資源を活用したプロジェクトを興し、地域を活性化

これからの「そうかリノベーションまちづくり」

草加市 自治文化部副部長
(兼)産業振興課長

高橋 浩志郎さん

草加市は2013 年、魅力的なまちづくりに向けた調査を実施しました。その結果、大規模施設などハードを中心とした開発よりも、既に存在するまちのコンテンツを有効活用した再生を望む声が多いことがわかり、リノベーションまちづくりを導入しました。

「ベッドタウン(寝に帰るまち)」だったまちに魅力的なお店ができ、最近では休日に商店街を歩く人の数も増えています。「空間」「文化」「人」というまちの財産を活用することによって、草加を活気づける取り組みが身を結んできている実感があります。

今後は「リノベーションまちづくり」を行う周辺地域との連携も深め、お互いのリソースを活用し、交流人口を創出する「共創」を深めていきたいですね。

 
引用元
情報誌スマイリング2022年夏号

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